2011年02月13日|マイスターブログ
先日東京で開かれたあるケミカルメーカーでの講習会と新製品の説明会に出席してきました。
新製品発表会では今回のメイン商品としてコンパウンドを紹介されていました。
どのような商品化かというと、今までのコンパウンドは傷を取るなり肌を調整するなりまじめに磨くとなるとスポンジバフを使用して磨いても3回の磨きが必要とされていました。
粒度の異なるコンパウンドで徐々に傷を置き換えていくやり方です。
当然施工に価格時間はそれなりにかかることになり、とても1日で終わるはずはありません。
今回発表されたコンパウンドはその工程を大幅に縮めることができるというコンパウンドでした。
粒度の異なり堅さも違う研磨剤を3種類配合することで、今まで3回の工程で磨いているものを一回の磨きで終了することができ大幅に時間短縮もできしかも仕上がり状態も非常によく、驚くことに脱脂の必要も無く磨き終ればそのままコーティングが可能というものでした。
今までも研磨剤を複数配合することで磨きの工程を短縮できるというコンパウンドは存在しました。
確かに仕上がったように見えるレベルに到達する時間は非常に早いのですが、仕上がりのレベル自体はお粗末なものでした。
それは当然のことで荒削りを担当しているコンパウンドは途中で無くなる訳ではなく、磨り減っても最後まで残っているのですからそれなりに細かい傷は付けていってしまいます。
仕上げを担当するコンパウンドもはじめから存在するのですから磨いている際にどんどん研磨力を失い仕上げできるだけの研磨力は衰えていくはずです。
物理的に考えるとこのような判断になり鏡面仕上げになるはずはありません。
しかしこのコンパウンドはレベルは低いですがそれなりの鏡面は作り出すことができます。
理屈的にはおかしな話ですが、ここにトリックが存在します。
傷はつけながらですが肌は調整されていきますしかし細かい傷は残っていますがその細かい傷をコンパウンドに樹脂を配合することにより埋めていくため、傷は残っていても樹脂により傷が見えなくなるような設計となっています。
この手の傷を隠すコンパウンドは今のケミカルメーカーの大きな方向性となっています。
しかしここで大きな問題が出てきます。
コンパウンドには水性といえども必ず油脂が配合されているため、コーティングをする際にこの油脂が残っているとコーティングがはじかれたり剥離の原因となるため脱脂という作業を行いコンパウンドの油脂を除去する必要があります。
しかし傷を隠す成分は有機物であるため脱脂作業を行うと傷を隠していた成分を溶かしてしまったり掻き出してしまい傷が見えるようになってしまいます。
そこでこのコンパウンドはコーティングをはじかない油脂を配合することで脱脂をせずにコーティングを可能としています。
しかしこれには条件がありこのケミカルメーカーで販売されている一部のコーティング剤にだけ有効となっています。
ガラスコーティングは無機といわれている物でも溶剤の段階では必ず有機物が混入されています。
この有機物はかなり強い成分で傷を隠すような樹脂成分は溶かしてしまうため普通は脱脂を行わずコーティングを行うと、隠していたはずの傷の一部が見えるようになってしまいます。
そこでこのコンパウンドの傷を隠す樹脂は一部のコーティングの有機物では溶けない成分を使用することで傷が見えてこないで施工可能なように設計されています。
しかしいくらコーティングがはじかれないにしても樹脂が溶けずに傷が見えないようになっていても、コーティングの下に有機物の樹脂があることは事実です。
しかしコーティングの下に有機物の樹脂が存在しているため必ず紫外線や水に含まれる成分によってこの樹脂は劣化してきます。
劣化すればどうなるのか?
“くすみ”
“くもり”
“コーティングの剥離”
このような症状は必ず出てきます。
保管状態や使用状況にもよりますが、早いものでは数ヶ月でこの症状は必ず出てきます。
なぜこのような商品が開発されるのか?
正直このような商品はこのメーカーだけではなく、ケミカルメーカーの主力商品となろうとしています。
理由は簡単です!
コーティングや磨きの施工単価の低下による粗利率の悪化により専門店の経営が悪化しているために安い単価でも施工時間を短縮し粗利率を改善するためです。
この状況によりさらに大きな問題がこの業界に広がっています。
車屋さんやインポーターなどの業販専門に施工されているところは別にして、エンドユーザーを専門に施工してきた専門店では、お客様の車を磨くまでには従業員の教育期間が非常に長くかかりそれなりのコストが必要とされてきましたが、施工単価が下がりこのような余裕が無くなり速成教育で磨きを行い売り上げを上げていく必要性が出てきてしまいました。
このため磨きの際に本当に傷を取り去り鏡面に仕上げることができる技術者がほとんどいなくなり誤魔化しで仕上げていくことしかできなくなってしまっています。
この講習会でもデーター紹介されましたが、コーティング&磨きの全国平均単価は3ナンバークラスで45.000円程度とのことでした。
これを検証していくと、このケミカルメーカーで販売されているコーティング剤が一台約5.000円ですからその他消耗品を合わせて10.000円が施工原価とすると残りは35.000円程度となります。
一般的な施工日程を2日と見ると家賃や光熱費などで6.000円残りはすでに29.000円となってしまいます。
ここから経費を25%引けば21.750円しか残りません、利益どころか人件費すらおぼつかない状態です。
これを読まれてお判りになられると思いますが、利益を出すためには2日ではなく1日で施工を終了する必要があります。
これを可能とするために業界の必要性に迫られこのような誤魔化しコンパウンドが販売されているのです。
このようなコンパウンドを使用したとしてもコーティングの工程は洗車・使用過程車ならば鉄粉取り・マスキング・磨き・コーティングという工程が必要となります。
1日施工となれば8時間でこの作業を終了しなければなりませんが、これを時間割していくと、
洗車拭き上げ=0.5h
鉄粉取り =1h
マスキング =0.5h
コーティング =3h
磨きに残された時間はわずか3時間しかありません。
車は大体13パネルに分けられますので、1パネルあたりの時間は約14分となります。
1パネルあたりの面積を1.2㎡とした場合一回のポリッシャーで磨く範囲が0.5㎡以下ですから3回に分けて磨くこととなりますから、1回あたりの所要時間は5分を切ることとなります。
この時間で速成教育のアルバイトに毛が生えたようなレベルの従業員が磨きを行いまともな仕上げとなるはずがありません。
これが価格に対する業界の対処法となってしまっています。
残念なことにこのようなコンパウンドを使用し、未習熟な技術者により完璧とは程遠い施工で高価な施工費を取っている悪徳業者も存在します。
時代はデフレで安さばかりが求められ、安いことが企業努力と思われがちですが、あくまでこれは商品製造や販売においてはその通りの事ですが、こと技術を必要としその習熟に時間がかかることにこの時代の考え方を当てはめていけば、このように誤魔化しでその市場の要求に対処する方向に向いていってしまいます。
確かに時代の流れとしてこのようなものでも市場が求めているのであればそれはそれで必要かもしれませんが、今この業界はこの流れに飲み込まれつつあり、周りを見渡せば世代交代の時期と丁度一致し新たな世代にはまともに磨きが行える技術者はいなくなってしまっています。
たまに車磨き研究所にお越しのお客様でも、
「前回磨きやコーティングにお車を出したら満足できないレベルであった」
といってお車を拝見することがありますが、施工価格をお聞きすれば正直その価格であれば“このくらいしか無理でしょう”と感じることがあります。
中にはお問い合わせいただく中にこんなご注文もあります。
「10年ほど経ったポルシェでトップ部分にイオンデポジットができて、艶もかなり無くなり塗装も油分が抜けかなり劣化をしている。
これを再生してこのような状態にならないようにするためにできるだけ耐久性の高い高機能のコーティング剤で施工してほしいのだけど、他の店には断られたのだけれども安くできるのなら施工したいのだけど?」
確かにお気持ちはわかります。
中にはこのようなお客様にたいした事もしないで、
「できる限りのことはしましたがこれが限界ですが00万円です」
というようにお客様の足元を見た“ぼったくり”施工店もあるのは事実です。
このような施工店は主に都市部の超高級車をメインに扱っているところや、地方でも業販メインで営業されているところが多いようですが、施工依頼されるときの受け答えである程度このようなことは判断できるはずです。
自尊心をくすぐるようなことをいったり、施工受付が職人ではなく受け付け専門に人員配置されているようなところは要注意です。
しかし少なくとも私どもが懇意にしている施工店にはこのようなところはありません。
我々も車が好きで車を大事にされたいお客様にできるだけご負担が少なく施工するにはと考えながらご案内をさせていただこうとしています。
しかし我々も企業として仕事をし、職人としてのプライドも持って仕事をしています。
クオリティーの高さだけは求められその対価はより安くは都合がよすぎます、求められるクオリティーに対して必要な対価もお考え頂きたいです。
お客様にお願いです!
人間が行うことですので安い価格をお求めになるのならそれなりのクオリティーになるのは当然です、価格以上のことはお求めにならないで下さい。
それなりに高いクオリティーをお求めでしたらそれなりの時間と対価は必要となります。
我々の業界・技術者を育てるのはお客様の考え方次第です!
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