2011年10月26日|マイスターブログ
東北地方にある、ある日産ディーラーから板金あがりの車がクレームになり対処が出来ないとのお問い合わせを頂きました。
内容は、
「自社板金工場でリアバンパーの補修をした際、親切心から補修はしていない隣接パネルを磨いたらオーロラマークが付いてしまいそれを磨き取ることができなくなってしまった。」
「実は補修パネル以外は絶対に触らないようにときつくお客様に言われていたのですが、板金工場で勝手なことをされてしまいました。」
「完全にこちらのミスですので、現況復帰はディーラーの責任で何とかしなくてはいけないのですが・・・」
「ニッサンの埼玉にある出荷センターや、東北の磨き屋などほとんどに問い合わせをしてみたが、すべて施工を断られてしまいました・・・」
「塗装がスクラッチシールドなのですが、こちらの磨き屋はスクラッチシールド自体がわかっていないので、まったく話になっていかないので出張で磨きをやって欲しいのです。」
とのお話でした。
画像などでの状況判断ではなく、話で現状の状態をお聞きしている限りでは非常に状態は深刻で、かなりひどい状態であるように感じる内容でした。
施工範囲はリアクオーターパネル1枚の話ですが、弊社から出張で東北まで行くとなると、幾ら数時間で終わる作業でも往復で2日間を要してしまいます。
そのため交通費などを含めると、誠意的に計算しても10万円は軽く超えてきてしまいます。
しかし他に方法がないとの事でそれでも施工をして欲しいと、ご依頼を頂きました。
しかし施工予約で動きが取れない為、約1ヶ月お待ちいただいての条件で10月月末近くに伺うことになりました。
いざ伺って現車を確認してみると、話でお聞きしていた状態から想像していたのとは大分違いました。
パット見にはほとんどオーロラは確認できません・・・
強い太陽光に照らされると多少ゆらゆらオーロラ状のボケが確認できるレベルです。
太陽が雲に入ってしまえばまったく見えなくなってしまいます。
磨き屋がこんなことを言うのもへんですが、この程度のオーロラはおそらくほとんどの車にあるのではと思えるレベルではあります。
ましてや板金あがりの車となると正直このレベルは当たり前というレベルのような気がします。
これ以上のクオリティーは板金工場やディーラーに対して望むこと自体が酷のようにも感じました。
しかし元はといえば、“お客様から触るな”と厳命されていた関係ないパネルにポリッシャーをかけてしまったのですからこれは程度問題ではありません。
とはいえ確かにオーロラが存在するのは事実ですし、板金施工前にはなかったことなので、
ディーラーに現況復帰の責任があるのも事実です。
なぜこのようなオーロラが入り対処が出来ないのか?
理由はいくつか考えられます。
現状から判断するとこの3点が主な理由になると思います。
これらを順を追って検証してみます。
1.スクラッチシールドという特種塗装であるため。
本来スクラッチシールドとは傷が入りにくい塗料という目的の為に作り出された塗装ですが、これはあくまで常温状態で本当にごく軽い擦り傷に対しての復元性を持つだけのものです。
塗装表面に対して鈍角に圧縮するような傷に対しての復元力を持つものであって、
鋭角に削り取るような傷に対しては復元力は持っていません。
逆にこのような傷が入ってしまった場合は、研き取ろうとすれば塗装が上下左右に温度が上がれば上がるほど弾性力を持つ為に動いてしまうので磨くことで熱が上がれば傷を取るどころか傷を入れていくリスクが高くなってしまう。
2.磨きの機材に問題があるため。
お聞きしていた機材状況は、メタルハロルド無し・水銀灯無し・ポリッシャーはシングルのみとの事でしたが、確かにこれでは相当の腕前があってもスクラッチシールドの黒ではオーロラは出てしまうと思います。
本来であればシングルポリッシャーで仕上げることが理想ではありますが、
スクラッチシールドやトヨタ202などでは至難の業です。
それを考えればこの機材でここまで仕上げたのは賞賛に値するかもしれません。
どんなにバフやコンパウンドを細かいものに置き換えて磨いていったとしても、傷自体が完全になくなるわけではなく、
視覚では見えないレベルに置き換えていくのが磨きです。
其の細かな微細な傷がシングルポリッシャーの場合一定回転方向に集中して付いてしまうことがオーロラとなって見えてしまいますので、この傷をギア・ダブルアクションポリッシャーなどで散らすことにより、
傷がランダムに置き換えられオーロラが消えることになります。
3.コンパウンドが仕上げに適していないものを使用している。
板金屋さんや磨き屋さんの多くが使用しているコンパウンドは研磨剤に酸化アルミナを配合したものが主流ですが、この研磨剤の形が研磨力を高める為に角のある形になっているものがほとんどです。
これは細目から超微粒子と粒度が細かくなっても同じことです。
研磨力が強いということは傷を入れながら削り取っていくこととなりますから、
磨く行為を行なえば傷を入れていってしまうことになります。
硬い塗装であればこれでも徐々に仕上がっていきますが、スクラッチシールドは1でも説明したように弾性力がありますから一度傷を入れてしまったところが磨いていっても逃げていってしまい何時までたっても傷が無くなっていきません。
むきになればなるほど塗装表面の温度が上がり傷が入りやすくなってしまいます。
それを避ける為には、傷の入りにくい形状をした研磨剤を使うか、すぐに磨り減りやすい研磨剤を使用することで、研磨剤により傷が入らないようにすることが必要です。
又研磨剤の絡みや焼きつきを起しやすい潤滑剤が入ったものは論外です。
出来ればドライアップタイプではなくハーフウエットアップタイプの方が適しています。
これ以外にも細かな理由はたくさん積み重なってのことではありますが、すべてのことを暴露するわけにも行きませんので、この程度の解説にとどめておきます。
お客様自身が傷を取ろうとしてリアドアをコンパウンドで磨いて曇りが出てしまったとの事で、当初のリアクオーターパネルとリアドアの2枚を磨きました。
都合マスキング~磨き~脱脂までの工程で3時間弱の作業時間で仕上げることができました。
今回は一度シングルポリッシャーを使い肌を整えてから、ギヤアクションポリッシャーでオーロラを消す磨きで仕上げました。
このお車のようにスクラッチシールドの黒でもメタリックが入っている場合はメタルハロルドや水銀灯でははっきりとオーロラの有無が確認しにくい為、露天に車を出し太陽光がもろに当たる角度に車を向けてオーロラの有無の確認をしました。
数分間に渡り色々な角度からオーナー様にご確認を頂OKを頂きました!
これでオーナー様・ディーラー様・私とほっと胸をなでおろすことが出来ました。
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